2014年9月22日月曜日

シンガポールの奇跡―お雇い教師の見た国づくり (中公新書) 1984/1/1

私のシンガポールのイメージは、長年、東南アジアの経済的に成功した中国人による都市国家だった。しかし、シンガポールを訪れると、中国人による都市国家というより、極めて西洋化した非常に合理的に運営された多民族国家という印象が強くなった。街には中国語の看板やサインも少なく、ロンドンや米国の街にいるような錯覚さえ覚える。

この本は1984年に出版され、1970年代はじめから9年間シンガポール大学(1980年に国立シンガポール大学に改称)で教鞭を取ったアジア史家の故・田中恭子さんの体験記。現在の発展の礎となった1970年代から1980年代初頭のシンガポールの様子が興味深い。

当時はまだ中国語(シンガポールでは中国系の人は華人、北京語は華語と言うとのこと)を話す住民も多く、華人住民が設立し華語で教えた南洋大学も健在だった。

リー・クワンユー元首相やその息子の現首相リー・シェロンなどのような人たちはババと呼ばれる英語派で学校教育だけでなく、家庭内でも英語を話すエリート層。華語を話す中間層の人たちとは違う階級だったことを知った。

華語華人派は中国寄りの左翼とみなされ、彼らの設立した南洋大学(私立)もその後弾圧を受け『消滅』したという。その経緯は田中さんを敬愛する東南アジア研究者で北九州大学の田村慶子さんの『多民族国家シンガポールの政治と言語 -「消滅」した南洋大学の25年』に詳しい。(現在はその跡地に国立の南洋理工大学が設立されている。)

余談だが、この本は古本を購入したのだが、この本を買って、1980年代の中公文庫は綺麗なビニールカバー付きだったことを思い出した。


http://www.amazon.co.jp/dp/4121007328