読書ノート
P.D.ジェイムズ (著), 小泉 喜美子 (翻訳)
数年前に英語のペーパーバックを購入し読み始めたのだが、読了する前に紛失してしまった。 アマゾンで古本を50円程度で見つけたので購入。早速日本語で読み始めた。
舞台は英国ケンブリッジ。ロンドンのリバプールストリート駅から電車で約1時間行くと到着する世界有数の大学街だ。かつて私も友人を訪ねてこの駅から電車に乗って何度か行ったことがある。(駅名とか地名が懐かしかった。)
P.D.ジェイムズは、寡作ではあるが良質な作品を発表する女流ミステリー作家で、これは彼女の初期の作品。P.D.ジェイムスは、本名をフィリス・ドロシー・ジェイムズ(Phyllis
Dorothy James)と言う。 1920年生まれで存命。(今年93歳) 1983年にDBE(大英帝国勲章中等勲爵士)に叙され、1991年に一代貴族の男爵(ホランド・パーク男爵)に叙されている。重厚で沈鬱な場面設定と緻密な描写、病院や官僚制に舞台を取る込み入った人間関係を描くことで知られる。エンターテイニングなミステリーだと思って軽い気持ちで読み始めると、意外な重々しさに難しいと感じる人もいるかもしれない。たしかに彼女の作品は「陰鬱荘重な雰囲気、部厚さ、極端に改行の少ない文章、相当な本格ファンでも途中で投げ出したくなるような描写の執拗さ」(註)
からマニア好みと言われている。他のミステリー作品だと登場する人物の描写も平板で奥深さを欠き、前半を読むだけでプロットや犯人や犯罪動機まで透けて見えて、退屈することが多いが、彼女の作品は、登場人物も個性豊かで、ミステリーとしても、最後まで、謎が解けず、楽しめる。
私がP.D.ジェイムズが気になるのは、小説の内容が重厚でありながら、ミステリーとして完成度が高く、楽しめることもあるが、彼女が医師と結婚し子育てをする普通の平凡な主婦であったこと。そして、医師の夫が戦争で精神を病んでしまったことから、生計のため社会保険事務所で働き始め、内部試験に合格し公務員としてもそれなりの地位に昇り、少年犯罪など警察関連の業務を担当し、定年退職してから、本格的に作家活動を始めたという経歴を知ったからだ。(そう言えば、フランツ・カフカも社会保険事務所に勤める平凡な公務員だった。) 90歳を過ぎても作品を書き(本人は最後の作品と言っているが・・・)、知的で悠々とした老後を送る女性である。 できたら、私も彼女のような人生を送りたいものだと秘かに願っている。(ここで書いたからもう「秘か」ではなくなったけど・・・。)
(註)ハヤカワ文庫巻末の解説―瀬戸川猛資「コーデリア姫とダルグリッジ探偵」より