旗本夫人が見た江戸のたそがれ―井関隆子のエスプリ日記 (文春新書 606) 深沢 秋男
水野忠邦の天保の改革の頃に生きた女性の日記について書かれた新書版の本。旗本の夫人で教養も批判精神もあって、好奇心旺盛な女性が当時の出来事をリアルタイムで記録に残した。その日の天候、地震、四季折々の自然の変化、江戸の年中行事、花見の頃の上野や隅田川、佃島の花火等々、話題は多岐に渡る。そして、江戸城中に仕える旗本の家だから入手できる幕府内部の動きも記されている。(井関家は江戸城の中奥と大奥の連絡部署である広敷を担当していたので、隆子は大奥の情報も知ることができた。) この他、特に面白いと思った のは、老中水野忠邦が罷免された時の様子だ。水野家の前に群衆が集まり、罷免を歓喜して、それまでの恨みから罵りながら石などを雨あられのように投げつけ大騒ぎになったという。見物人を含め多くの群衆が集まったので役人が鎮圧にあたったが、それらの役人も心の中ではいい気味だと思っていたらしく、夜になると暗闇に乗じて石を投げ始めたというのだ。こういうことは天保の改革について書いた教科書には載っていなかったので驚いた。その他、旗本の心中話や落語の品川心中のもとになった心中未遂事件、大奥の事件、将軍家斉の死を巡る謎、江戸城内の火事等々、興味深い記述が多い。歴史好きには楽しめる本だ。