2013年5月2日木曜日


読書ノート

つゆのあとさき
永井荷風

昭和初期の東京の風俗や街の様子が興味深かった。井原西鶴の時代からここに描かれたような快楽主義は存在したのだろうが、小市民生活を送る私などには伺い知れない世界でもある。登場する男達は作家や金持ちの老人や商人や元役人や元箱屋(箱屋って何だ?)とか、30代後半から60代まで幅広い年代だが、飛んでもない放蕩者たちだ。(女性は20歳とかめちゃくちゃ若い。30歳の女は大年増とか呼ばれている。)   唯一、作家の清岡のマネージャーみたいな仕事をしている男が「昔ながらの守銭奴」的生き方をしていて、面白い人ではないし小説の主人公にはなりづらいだろうけど、現実世界では安心できる人物はこういうタイプだろう。あと若い文学青年の村岡もいい奴って感じだ。 あとは人格的にもひどい奴らが結構欲望のままに生きている。

使われている当時の日本語も、なんとなく想像はできるけど、はっきりとは意味の分からない言葉などもあるし、言い回しが現代とは違っているのが面白い。日比谷からJRのガードをくぐった今の銀座5丁目6丁目あたりは尾張町と呼ばれていたり、あと、荒木町や牛込とか、今は使われていない町名も、今はどこなのだろうと調べてみたりした。

銀座通りのカフエ(カフェではなくカフエと発音していたらしい)の内部の描写も詳細だ。イタチくらいの大きさのドブ鼠がいたり、大きな馬バエがいたりするのは、なんとも不潔。世田谷が田舎で別荘地みたいに描かれていて、昭和初期の東京はまだ今の山手線の内側の地域が中心だったということが分かる。

主人公の女は享楽的な性格の怠惰なカフエの女給(今で言うとホステスみたいな仕事らしい)で、彼女がカフエへの通勤に使う電車は路面電車で、銀座から新宿まで走っていたようだ。途中に半蔵門とか四谷見附とかを通って行く。この路線は多分都電が廃止され後、バスが運行されるようになったらしい。この同じ路線をこの間までバスが走っていた。私は、時間があるときは日比谷から新宿まで行くこのバスに乗ったりしていたけど、先日いつものバス停に行ったら、廃止されていた。今は地下鉄もできたから利用者が減ったので、廃止になったのかもしれないが、お堀端や最高裁判所や国立劇場などが車窓から見えて、楽しい路線だったのに残念。地下鉄ではあの景色は楽しめない。

あと、建仁寺垣とか瓦塔口とか吉原五徳とか・・・・東京の過去の生活や風物の描写など興味深い。戦争もあったし、80年ほど前から、その姿が大きく変わったのは当然だとしても、変わりようが面白い。

小説のストーリーより、現代から見ると珍しい昭和初期の東京の風物に興味がそそられた。

この小説は、「青空文庫」で無料ダウンロードして、iPad Miniにて読了。
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