横光利一は1928年(昭和3年)に約1ヶ月間上海に滞在した。この小説は彼の上海滞在を機に執筆された長編小説である。1925年(大正14年)の五・三〇事件前後の列強と中国共産党、ロシア革命後のソビエト勢力、その他各国の諸勢力の動きを背景にしているが、主に描かれているのは上海の日本人社会。 興味深いのは映画『上海の伯爵夫人』(The White Countess)で描かれたような、ロシア革命で貧窮のどん底に落とされたロシア人貴族の女性たちの自暴自棄な生活や、身を売る以外生活の糧を得る道の無い当時の女性たちのか弱さ。男性が書いているから、そうなのか、本当に当時の女性はあれほど弱かったのか、分からないけど、簡単に苦界に落ちてしまい売春婦になってしまう日本人女性『お杉』やクラブのホステス『宮子』、癲癇持ちのロシア貴族の女で日本人ビジネスマンの愛人として暮らす『オルガ』。どの女性も男に頼るしか活きる術がない悲しい生活をしている。登場する男達は自分勝手でグロテスクだし、描かれている中国人達は救いようもなく貧しく惨めだ。内容的に当時の上海の日本人社会の事情や状況は理解できたし、上海には彼らを取り巻く各国の人々もいたのだな~という以外の思いは湧き上がってこない。内容の薄い時代物ドラマのような薄っぺらさ。同時期の1934年には上海における共産主義政権の崩壊を描いたアンドレ・マルローの『人間の条件』を読んだのは高校生か大学生の頃だったが、この横光の作品によりは引き込まれたし共感できたような記憶がある。